引っ越しニュース!
「和!潤!!」
「かずー!じゅーーーん!」
30分以上経った。
雅紀と大声を出して辺りを捜索しても見つからない。
警察に駆け込んでも良かったけど、俺は親じゃないし事情を説明する時点で時間がかかると踏んで頼ることはしなかった。
本格的に誘拐という2文字が浮かんできた頃、雅紀が「もしかして…」と呟いた。
「何だ?!心当たりあるか?!」
幼稚園も公園も俺のマンションにもいなかった。
他にアイツらの行きそうな場所なんて…
「…ウチかも。」
「…家?お前らの?2駅先だぞ?」
同じ町内だが駅は2つ先だ。
幼稚園が俺の最寄り駅の近くなのは、姉貴の職場が近いから。
あと緊急時俺が迎えに行けるように。(ベースの人遣いが荒すぎる)
歩いていけない距離ではないが子どもの足では恐ろしく時間がかかる。
それに単純な道ではないから5歳児だけで辿り着けるとは考えにくい。
「ようちえんの子はタダで電車乗れるもん!和は頭いーから子どもだけで乗ったことあるし、多分そうだよ!いってみよ!」
「…わかった!」
俺より雅紀の方がよっぽどアイツらのことを分かってる。
俺は雅紀の手を引いて駅に急いで向かった。
駆け付けたアパートはボロボロだった。
姉貴がこの辺に引っ越してきたのは知ってたけど…まさかこんな年季の入った所とは。
親の保険金で余裕かと思ってたけど、シングルマザーで3人育てるのは大変だったのかな。
言えよ、ったく…。
少しは手伝ったのに。
金に余裕はあるんだから。
雅紀曰く、2階の奥から2番目の部屋らしい。
両側の部屋の電気はついているが、当該の部屋は当然真っ暗だ。
しかし部屋前に居る可能性を考慮して「とりあえず部屋の前まで行ってみよう」と雅紀に声をかける。
カンカンと階段を上ると共に、ギシ、ギシ、と錆びた鉄は悲鳴を上げる。
…落ちねぇよな?
そんな不安に苛まれつつ上がりきると……
「…いないね?」
「あぁ…。」
残念ながら薄そうな扉の前に双子の姿は見当たらない。
ドクンドクンと嫌な気持ちに包まれていく。
…頼むから無事でいてくれ…。
「…しゃーねぇ。警察行こう。雅紀も説明してくれるか?」
「うん!ちゃんとせつめーする!翔ちゃんは一人ぐらしなのに全然おりょーり上手じゃないですって!」
「バカ、それはややこしいからやめてくれ…」
また階段を降りようとしたその時。
「だから、翔ちゃんってそういうとこあんの!」
…あれ?
「どしたの翔ちゃ…」
「しっ!!!」
唇に人差し指を当て、耳を澄ます。
聞き間違いじゃなければ…和の声だ!
「翔くんのお弁当ってね、にがくてしょっぱくて…きたない。」
グサッ。
じゃなくて、間違いない!!
潤の声だ!!!!
雅紀があれ?と首を傾げるから、しーっのポーズをしたまま声の聞こえる場所へと向かう。
2階の一番奥の部屋だ。
換気のためか、窓が少しだけ空いているから声が筒抜けになっている。
「ふふ、………なの?」
家主だろうか、男の声が聞こえるが声が小さく聞き取りづらい。
「そおだよ!ボクらめっちゃ恥ずかしいんだから。」
恥ずかしい…って、まさか…弁当?
「先生やオトモダチにいつもかわいそうに…っていわれるんだよ!」
グサグサッ。
「おうちもきたないし~」
グサグサグサッ。
「お休みの日もつかれてるしおしごとしてるしぜんぜんあそんでくれないの!よーりょーわるいんだよ!」
グサグサグサグサッ。
「なでガタだしね。」
ブシュゥゥゥッ(血)
いやそれ関係なくね?!
つーか…
やっぱ、そんな風に思われてたのか。
最低じゃねぇか、俺。
こんな小さい奴らにこんな思いをさせて。
可哀想…か。
…施設は…最善な選択なのかもしれない…。
「……翔ちゃん、あの……」
落ち込んだ俺に気付いて雅紀が心配そうに呟く。
繋いだ手にぎゅっと力が入る。
俺がすべきことは………
この小さい手を離すこと──。
「なのに…2人とも『翔くん』が大好きなんだ?(笑)」
…え?
今度はハッキリと家主の声が聞きとれた。
男の声で間違いないと思うけど、驚く程柔らかい声だった。
引っ越し特集♪贈って喜ばれる商品がいっぱい♪
↓こちらにも1票入れて頂けると嬉しいです♪
↓こちらからいろいろな海外生活ブログが読めます!
●「まぐまぐ!」より有料メルマガ『ojoの笑えるスイス生活』配信中です。
ブログよりもっとスイスにフォーカスしたお話や、ちょっと笑えるリアルなスイス生活のお話をお届け。
初月無料!いつでも購読解除OK!
ご興味をお持ちの方は、下のバナーをクリックして無料サンプル&詳細をご確認ください♪
皆さまのご登録、心よりお待ちしております。
引っ越しに足りないもの
珍しく待っている人がいないので、
ちょっと早いけど、寄ることにした。
既に二人が整髪中で息子と娘さん。
奥に座っていたのがパパ友で、
ちょっとビックリしたけど。
少し待てばいいのだろうと思ったら、
奥さんが出てきて、席に案内する。
最近は息子か娘ばかりだったので、
久し振りだったかも知れない。
女房が最初の病院で抗がん剤治療していた時は、
奥さんも同じ医師に全摘手術を受けたことや、
シリコンを入れていることなど教わって、
不安ばかりだったので、本当に有難かった。
いつだったか、原発事故の影響で、
立入りが制限されて、お骨を改葬できないとか、
実家、既に誰も済んではいないが、
防護服を着て一時的に様子を見に行った時は、
動物で、家が荒らされていたことを聞いている。
そんなこともあって、
「土曜日に富岡町の桜のトンネル、
バスで一時的に見られるようになったのを、
ニュースで報じていましたよ」
なんて話しかけたら、
「そうなのよ、見事な桜なんだけど、
もう、除染されたのかしら」
「いえ、入り口の300mは入れるみたいで、
その先は、未だに立入り禁止区域だって」
「アタシの実家は、そこから割と近くて、
昨日、除染するから立ち会うかどうか、
葉書が来たけど、お店を休むわけもいかないし、
解体工事の時は立ち会う積りなんです」
「えっ、まだ除染されてなかったんですか」
あれから改葬の話はしていなかったけど、
汚染されていない証明だとか、埋葬許可証、
こういった書類は揃えられずに困っていたが、
かなり立入り制限区域も解除されていたから、
もう、8年も経っているのに終わっていない、
そのことの方が驚いてしまう。
「そうなんですよ、でも除染されると、
今度は固定資産税を払わないといけないって、
この前、地元の知り合いに聞いたばかりで」
「今まで放置されていたのに?」
「なんでも住める状態になると払うって、
更地にしたって、誰も買う人がいないのに」
元々住んでいた人たちも、既に引っ越して、
新しい生活を始めているから、今更...
「おまけに除染されると評価額が高くなって、
その分、固定資産税も高くなるらしいの」
詳しくは分からないが、強制的に退去させられて、
その間は税金などは減免されていたのだろう。
だからといって、8年間も放置されていて、
除染が終わればお終いなの?
東日本大震災で、津波の被害にも遭わず、
家もなんとか無事だったのに...
あの事故さえなければ除染なんてこともなく、
お墓参りも、いつだって行けたはず。
あの桜のトンネル、震災前は、
実家に泊りがけで見に行っていたとか。
J・E・ガーディナーで。