こんな情熱は嫌だ

僕ら５０代〜６０代の男たちは、子供頃から

「人生に夢を持てッ」と育てられ、３０代に

なった途端「いつまで夢なんか見てるんだッ

もっと現実を直視しろ」と、先輩に叱咤され

４０代になれば「旦那、元気で留守がいい」

と、妻に男としての尊厳を無視され、さらに

６０代になっては「濡れ落ち葉」と世間から

揶揄（やゆ）されて来てた生き物です。

だた、不倫に憧れるだけの男をリアルな不倫

に走らせるきっかけは、いったいなんなんだ

ろうか。

必ずそこには何かしらの「神の一撃」がある

はずだ。

女性も同じかもしれないが、不倫する男性が

最初に発するのは「生きることに疲れたァ」

と言う言葉だ。冒頭に書いたような理不尽な

扱いにさらされながらも、黙々と生き抜いた

きた。

生きることに疲れた男は心の底に「理不尽な

扱い」に対する憎しみが抑圧されているから

妻を含め「身の回り人」と心が触れ合えなく

なっている。

つまり一人でいることも楽しくないが、皆と

いることでも消耗する状態に置かれている。

妻や知人、そして会社の中で、人前で自分を

偽ってきたことが、もう限界にきているにち

がいない。

おそらく「「生きることに疲れたァ」と言う

男は、世の中に恨みをお持ちつつも、表面化

させることもできず「生きるエネルギー」を

失いつつあるということだろう。

そんな時、妻の言う「あんな女」が真面目で

だた「不倫に憧れるだけの男」の前に登場す

るのが、人生の人生たる所以というか、人生

の機微なるものだ。

僕にも経験がある。３６歳のときだ。１４歳

年下の田舎娘だった。でも、背の低い彼女が

下から僕を見上げた目を見た瞬間、天使に見

えたことが今でも忘れられない。

天使が舞い落ちるとはこういうことなのだと

衝撃をうけた。

バブルが崩壊し、社運をかけたプロジェクト

の失敗を、すべて僕の責任にされ追い詰めら

れていた時であった。着ていた白いブラウス

のせいだろうが、彼女の笑顔は「天使」その

ものだった。決して美人ではなかったが笑顔

は輝いていた。

そして、結婚生活では感じることがなかった

生身の女がそこに居た。

一般的に、こうした場面に遭遇すると、男性

にとっての妻は「怖い日常」と化する。

そして「生きることに疲れたァ」と感じる男

には、女性にとって放っては置けないような

悲哀に満ちた独特の「背中」がある。

その背中に向って「天使」は声をかけてくれ

るのだ。

今度、飲みに連れて行ってくれませんかと。

この言葉こそそうした中高年を救ってくれる

まさに「神に一撃」だ。その瞬間から男たち

は今まで「妄想」でしか見られなかった甘美

な「宇宙」の旅が始まる。

ある脳科学者よるに、女性は「生殖機会」を

逃さない為の、本能的に行動する瞬間がある

という。その時「女性脳」は、積極な行動を

促しさらに攻撃的な意識にさらされる。

つまり発情した「雌」には、理不尽なことや

或いは、倫理に抗うと知りつつ相手に絡まず

にはいられない衝動に駆られる特性があると

いう。

男性脳は、高い空間認識力を有し、獲物まで

の距離を正確に測って狩りをし、無茶な冒険

や競争し疲れ果てる。

一方、女性脳は、目の前の空間を舐めるよう

に観て、生活空間を大事にし、食べ物の腐り

具合や、他者の体調の変化を見逃さず、生殖

相手の遺伝子を厳選して独占しようとするら

しい。

生きることに疲れてしまった「だた不倫に憧

れるだけの男」を、こうした「女性脳」を潜

在化させた「女」は見逃さない。

そして、その悪魔の女性脳を持つ「天使」の

今度、飲みに連れて行ってくれませんか、の

たった一言でだた「不倫に憧れるだけの男」

を「リアルな不倫」に走らせる。

僕は、３５年間で何人かの女性と不倫をして

きたが、その「箍（たが）」が外れる」時の

「神の一撃」は、全て女性側から受けたよう

に記憶している。

ある女性は「君って、エッチの時は声を出す

んですか」と聞くと「倫太郎さん、試してみ

るゥ」だったし、またある女性は「私に部屋

に来るのはいいけど、その代わり最近、腰痛

気味なの。腰をちゃんと揉んでくれるッ」。

もっとも積極的だった女は「倫太郎さん、私

日活ロマンポルノって観たことないの、連れ

て行ってくれるゥ」と誘われ、途中退場して

そのままラブホでお互いを貪りあったことも

あった。

そして生まれて初めての不倫も「倫太郎さん

大学の研究室で皆んな猥談するけど、私ね

経験がないから皆んなの話に付いていけない

んです。だからお願いシテッ」だった。

圧巻だったのは、あるホテルのバーに行くと

偶然にも元部下の女性が居て「よッ、お久し

ぶり。綺麗になったなァ」と言うと、急に泣

き出して「同棲していた彼に、一緒に沖縄の

実家で暮らさないかと言われたのッ。無理っ

て断ったらアパート出て行っちゃたァ」と再

び号泣。

そして神の一撃「倫太郎さん、お願いッ彼を

忘�
��させてェ」と来た。

僕は、以前に読者より「不倫は、貴方のよう

な不埒な男がいるから女は犠牲になり被害者

意識を持つんだ」と批判を受けたが、僕は敢

えて長くなるから反論はしなかった。

此れからも反論はするつもりはないが、不倫

の始まりは、バカな男の幼稚な「仕掛け」ば

かりでなく、其処には女性が画策する「神の

一撃」が、確かに存在することを申し上げた

い。

でも僕は、彼女には、お小遣い以、具体的な

保証は与えてはいないが、代わりに妻の何十

倍もの妻へのそれと「質の異なる」優しさや

親切さ、そして寛大さと、情熱を捧げている

と思ている。

もっとも、情熱の認識は、あくまで僕の心の

中の物語であって妻に与えている法的に保証

されて妻の座と違って、はっきり目に見える

のものでない。彼女が、僕から得ているもの

は極めて精神的なものであるだけに、見えづ

らいのも確かである。

しかし、不埒者の誹りうけながらも僕は、妻

に与えている保証と同じくらい、いや、それ

以上に、彼女に与えている精神的・肉体的な

献身は大きいと思っている。